犬の肥満細胞腫
【概要】
犬の肥満細胞腫(Mast Cell Tumor, MCT)は、犬の皮膚にできる悪性腫瘍(がん)の一種です。肥満細胞は体内のさまざまな部位に存在する正常な細胞ですが、これが腫瘍化したものを肥満細胞腫と呼びます。なお、「肥満」と名前がついていますが、犬が太っていることとは関係ありません。発生部位は体のどこにでも見られますが、特に皮膚にできることが多く、まれに内臓にも発生することがあります。肥満細胞腫は悪性度によって低悪性度と高悪性度に分類され、高悪性度の場合は転移や増殖のスピードが速いため、早期の診断と治療が重要です。見た目だけでは正確な判断が難しいものの、赤みを帯びたしこりが見られた場合は、肥満細胞腫の可能性があるため、早めの受診をおすすめします。
【診断】
肥満細胞腫は、他の皮膚腫瘍と見た目が似ているため、診断には細胞診や病理検査が必要となります。
・細胞診:細い針を刺して腫瘍細胞を採取し、顕微鏡で観察します。肥満細胞特有の顆粒を持つ細胞が確認されれば、肥満細胞腫と診断されます。細胞診だけで診断が難しい場合には病理検査を実施します。
・病理組織検査:腫瘍の一部を採取し、悪性度(グレード)を評価します。
低グレード(グレード1・2):転移の可能性が低く、手術で完治する可能性が高い。
高グレード(グレード3):転移のリスクが高く、追加治療が必要。
・画像検査 (転移の確認)
腫瘍が内臓やリンパ節に転移していないかを確認するため、X線検査(レントゲン)や超音波検査(エコー)を行います。
【治療】
肥満細胞腫の治療法としては、主に手術が第一選択となります。その他の治療として、抗がん剤や分子標的薬を用いる方法もあります。
・手術(外科的切除)
肥満細胞腫は、見た目のしこりよりも広範囲に拡がっていることが多いため、再発を防ぐために腫瘍の周囲を大きめに切除します。
・抗がん剤治療
高悪性度の肥満細胞腫や、手術で取り切れなかった場合には、抗がん剤を使用することがあります。
分子標的薬(トセラニブ、イマチニブ)
その他の抗がん剤(ビンブラスチン、ステロイドなど)
【当院の取り組み】
当院では、肥満細胞腫の手術症例が豊富で、さまざまなケースに対応可能です。個々の動物に合わせた治療計画を提案し、治療方法を飼い主様と相談し行っていきます。
・精密な診断で適切な治療計画を立案
細胞診、病理検査、画像診断を組み合わせ、腫瘍の性質や進行度を詳しく調べます。
・体への負担を最小限にした治療を提案
治療方法として手術だけでなく手術以外の有効な方法がないかも確認しつつ治療計画を立てます。手術の際は、必要最小限の切除で機能をできるだけ温存し、術後の回復を早めます。また、高齢のワンちゃんや持病がある場合でも、無理のない治療方法を提案します。
・オーナー様への丁寧な説明
治療方針や予後について、わかりやすく説明し、ご家族と一緒に最適な選択を考えます。
【入院・通院の予測】
・診断のための検査(細胞診・血液検査・レントゲンなど):ほとんどの場合、通院で診断可能です。
・手術の入院期間:手術の内容によりますが、多くの場合数日から5日程度で退院できます。
・抗がん剤治療:通院での治療が可能です。
【費用の予測】
・診断費用:20,000円〜30,000円
身体検査、細胞診、レントゲン、エコー検査など
・手術費用:100,000円〜200,000円
多くの場合には上記の金額程度となりますが、腫瘍の大きさや場所、動物の状態により異なるため担当獣医師とよくご相談してください。